『くろい読書の手帳』 後藤 繁雄

★★★★★★★★★☆ (アートビートパブリッシャーズ) 2004

書評集。「思想の価値は示された勇気の量で決まる」とはウィトゲンシュタインの言葉なのだが、これは書評であっても同じである。勇気を示している書評はたとえ、私と守備範囲が違っていても引き込まれるものである。例えば、取り上げられている作品のうち既読なのは、『小林秀雄全集 第12巻 考えるヒント』小林秀雄と『ブックストア』リン・ティルマンの二冊のみなのであるが(『考えるヒント』は文庫で読んだので全集だと収録が違うかもしれないし)、それでも著者の熱い何かが伝わってきて良かった。ひたすら熱く言えばよいというのではなく、子どもの頃、どもりがひどくて人とコミュニケーションが取れなかったという文章など、抑制された中で語られるので心に響く。坪内祐三も勇気を示している書評だから、好きなのである。それにしても、中上健次は読んでおくべき作家なのだろうか。